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狙われる有権者たち デジタル洗脳の恐怖 日経ビジネスより転載 その四

狙われる有権者たち、デジタル洗脳の恐怖

「操られる民主主義」の著者、ジェイミー・バートレット氏に聞く(前編)

伏見 香名子

 

歴史的に既得権益がテクノロジーを乗っ取ってきた

アラブの春」が始まった2010年ごろ、インターネットは政治資金を持たない民衆にも民主革命を起こすことのできる「素晴らしいツール」だともてはやされました。

 

バートレット氏:その通りです。2010-11年頃は皆が、インターネットは人々に声を与え一つにする、民主化のツールだと楽観視していました。それはとても単純な見識だったのです。プラットフォームを作るだけで人々が動くーー表面的には素晴らしいことですが、全く誤った認識です。いずれ政府や軍、ハッカーなどが、自分たちの権力を強化する、あるいは他者を陥れ、介入・干渉するツールとして利用することは、明白でした。

 

 不運にも、シリコンバレーの人々は、テクノロジーの力を盲信するあまり、こうした可能性に、全く無頓着だったのです。歴史を多少なりとも学べば、こんなことは火を見るより明らかでした。強大な国やグループ、既得権益がこうしたテクノロジーを乗っ取ることは、既に繰り返されてきました。2011年から2016年にかけ、こうしたテクノロジーに対して世論は「自由をもたらす、素晴らしいもの」から、「民主主義を脅かすもの」に変わりました。

 

大胆な言い方をすると、こうしたテクノロジーは「デジタル洗脳」を可能にした、ということなのでしょうか。

 

バートレット氏:1990年代の大いなる仮説では、人々がより多くの情報、そして、他者と繋がる機会を得れば、民衆はより賢くなり、また政治家自身も、民衆との繋がりや、新しい知識を得ることで、より洞察力が深まると思われていました。これは、短絡思考の最たるものだったでしょう。

 

 人々に、ブログやチャート、意見やニュース記事など、しばしば全く矛盾した情報を流し続け、情報過多にすることは、感情的な反応を呼び起こすだけです。思考をきちんと処理し慎重に考察する時間や、意見の異なる人と、きちんとコミュニケーションをとる時間すらありません。全て「相手が間違っている」と一蹴する、あるいは「自分と相手のテリトリー」を区分けし、他者と戦い続けるのです。

 

 これはある意味「洗脳」であるかもしれませんが、意図されたものではなく「デジタル雪崩」の産物であると言えるでしょう。人々は、これだけ多くの情報に対処しきれないのです。だからこそ、昨今の政治は不運にも知識を欠き、より感情的で二極化されています。約束された世界とは、真逆の事態に陥っています。

 

現状の民主主義は「アップグレード」が必要な時期だと言うことなのでしょうか。

 

バートレット氏:消費者としての私たちの生活は、「インスタグラム化」しているのに、市民としての民主主義は、未だに写真屋に金を払い、ゆっくりと写真を現像しているようなものです。市民がますますポピュリズムに傾倒している理由の一つは「問題がすぐ解決され、欲しいものは即座に手に入り、妥協の必要など一切ない」といったことが約束されるからです。現在の私たちの生活に合致しているのです。

 

 ポピュリストや独裁主義者らは文化的に、世界の現状に即しています。民主主義国家や主流政党は、これまでと全く異なる時代に、どうやって民主主義自体を再生し、機能させるかを考えるべきでしょう。民主主義以外の全てのことが、変化しているからです。私たちを囲むテクノロジーから完全に立ち遅れている政府形態が存続し続けるために、残された時間はほとんどないでしょう。

 

 簡単な解決法もあります。まず、選挙法を時代に即したものに改定すること。デジタル広告は、テレビ広告と同様の規制をかけ、同時にデジタル以外の広告同様に、資金投入の上限を設定するのです。こんな単純なことでさえ、まだ実行されてはいません。

 

(後編に続く)