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大手商社、業績絶好調も トップの顔色冴えず 理系社長「第4次産業革命」取り込めるか

 資源高を追い風に三菱商事三井物産伊藤忠商事など大手7商社の業績が好調だ。新興国経済も好調で経営環境に大きな不安はない。だが、好業績とは裏腹に経営トップの表情は厳しい。人工知能(AI)など「第4次産業革命」と呼ばれる技術革新が、商社のビジネスモデルを一変させてしまう可能性があるからだ。商社トップは、第4次産業革命をどうチャンスに変えるか経営手腕を試されている。ただ、各社は1990年代末期~2000年代初期のITバブル時にもベンチャー企業に出資したが、バブル崩壊後に撤退した。今回のIT需要の盛り上がりは本物なのか、どうビジネスモデルを変革すべきなのか-。各社トップはまだ読み切れていないようだ。(産経新聞)

 

 大手7商社は2月上旬、平成29年4~12月期連結決算を発表。資源価格の上昇に伴い、最終利益は前年同期と比べて全社が大きく伸びた。30年3月期の通期予想についても、トランプ米政権の税制改正が追い風となり、5社の最終利益が過去最高を更新する見通しだ。最大手の三菱商事リーマン・ショック直前の20年3月期以来、10年ぶりの最高益更新となる。

 通期の最終利益見通しが想定より膨らんだのは、各社の非資源事業強化の取り組みが進んだ面もあるが、資源価格の持ち直しと米国の大幅な法人税引き下げの効果が大きかった。

 世界経済の回復や産油国による減産を背景にした国際原油相場の持ち直しで、石油・石炭などの原料と製品価格が上昇。まず、この資源高が商社の業績を押し上げた。

 また、米国の法人税率はこれまで35%と高かった。ただ、昨年末に決まった税制改革で今年から法人税率を21%に下げた。

 経済産業省によると、日本企業の米現地法人の最終利益合計は27年度で1兆8000億円。大和総研は、米法人税率が14ポイント下がると、税金の支払額が9200億円から5400億円に4割減ると試算。特に、商社など卸売業は約1200億円の利益押し上げ効果があるという。

 商社の空前の好業績はこうした外的要因に負うところが大きく、本業では各社とも伸び悩んでいるのが実態だ。停滞感をどう打ち破るかが最大の経営課題で、三菱商事の垣内威彦社長も「価値観や発想を変え、新しいビジネスモデルで打破したい」と社員に訴えてきた。

 一方、世界に目を転じると、AI、モノのインターネット(IoT)を背景に、米国のアマゾン・コムやグーグル、中国の騰訊(テンセント)、アリババなどネット通販、会員制交流サイト(SNS)などの運営企業が急成長し、世界経済を牽引(けんいん)。仕事や生活のスタイルを一変させた。

 ソフトバンクグループが約8500億円を出資した米配車大手ウーバー・テクノロジーズは、アプリを通じ、自家用車などを使って有料で客を運びたい人と客を結び付ける配車サービスを手掛ける。一般の人が客を運べるライドシェア(相乗り)と呼ばれるこのサービスは、タクシーなど既存のビジネスモデルを覆しつつある。

 何度も「冬の時代」を乗り越えてきた商社だが、過去の延長線上では、第4次産業革命を生き残れないという危機感があり、丸紅の国分文也社長も「効率化ではなく、ビッグデータという資産をどう新しいビジネスモデルにつなげるか、逆転の発想で自分ゴトにしてほしい」と電子メールで、社員に訴えた。

 さらに、自動車関連事業は、「コネクテッドカー(つながる車)」「オートノマス(自動運転)」「シェアリング(共同所有)」「エレクトリシティー(電動化)」の頭文字をとってCASEと呼ばれる「100年に一度の変革期」のまっただ中にある。新技術は鉄鋼など重厚長大企業をも変えつつある。

 三井物産の安永竜夫社長は中国鉄鋼大手トップとの会談で話題はもっぱら電気自動車(EV)化の材料開発や電子商取引だったと打ち明ける。

 中国では昨年、鉄鋼の過剰生産能力が問題視されたが、この中国鉄鋼大手は、鉄鋼製品の仲介▽物流▽検品▽決算▽与信-をネット上で処理できるプラットフォームを構築中という。安永氏は「まさに商社機能そのもので、黙ってみているわけにはいかない」と危機感を募らせる。

 伊藤忠商事の岡藤正広社長も「金融とITが融合したフィンテックなどの新潮流に対応しないと、規制がんじがらめの日本は取り残される」と強調。資本提携する中国の巨大国有企業、中国中信集団(CITIC)との協業も生かし、新事業を中国で手がけたい考え。

 とはいえ、古くから日本の産業を下支えしてきた商社が、ビジネスモデルを急転換するのは容易ではない。まずは現実路線として、既存事業の連携に商機を見いだそうとしている。総合商社は“背番号制”と揶揄(やゆ)されるほど、鉄鋼や機械、資源など部門間の「縦割り意識」が強く、これまでは人事交流も少なかった。それだけに、今後は部門間の連携を活発化することで、新たなビジネスモデルを生みだそうとの発想だ。

 三菱商事ではこれまで、天然ガスの調達と発電は別々の部門で担当していたが、ガス調達から発電までを一貫して手がける事業や、マンションなどの不動産開発と鉄道などのインフラ整備を合わせた総合都市開発事業などを検討。将来の組織改革も視野に入れる。

 住友商事も、自動車部門と素材部門で別々に手がけていた自動車部品を4月から両部門が共同で携わり、EV時代を見据える。

 その上で、ITそのものをどう取り込むべきかが課題だ。

 三井物産は買収した米トラックリース事業にIoTを導入して故障予知につなげているが、この保守管理ノウハウを他国にも活用する。

 丸紅は強みの電力で、英子会社が持つ中小発電所の電力をまとめて需要に応じて販売する「電力版ウーバー」を広く展開したい考え。

 最先端のITに投資するため、米シリコンバレーイスラエル、中国での拠点開設の動きも相次ぐ。だが、各社は90年代末期にもシリコンバレーに拠点を持ち、新技術に投資したが、目立った成果を挙げられず、多くは撤退した。

 このため、第4次産業革命では、経営者の目利き力が問われることになる。

 各社の経営トップに理系出身者が増えているのも偶然ではない。横浜国大工学部を卒業した豊田通商の加留部淳社長、東大工学部卒の三井物産の安永竜夫社長に続き、今年4月に住友商事の社長に就任する兵藤誠之氏は京大大学院工学研究科修了だ。伊藤忠商事の社長兼最高執行責任者(COO)に就任する鈴木善久氏も東大工学部の出身で、ともに新たなビジネスモデル作りを託された。

 第4次産業革命の成長力をどう見極め、どう社業に取り込めるか。総合商社の“真価”が問われている。(経済本部 上原すみ子)

 ■第4次産業革命 最新の情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)、ロボットなどを駆使して生産効率を飛躍的に高めようという世界的な技術革新の動き。蒸気機関による工場の機械化が実現した第1次産業革命、電力の活用による大量生産が始まった第2次、生産工程が自動化された第3次に続く変革期と位置付けられている。政府は成長戦略「未来投資戦略」で、AIなどの先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、社会問題を解決するとした。 

 

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